台北日本人学校の活用事例に学ぶ、デジタルサービスが海外に届ける本と学び
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在外教育施設に通う小・中学生(日本国籍保持者)は、2024年度の調査で約4万人にのぼります。
海外の学校ならではの様々な事情の中で、どのように子どもたちの学びと向き合っているのか、台北日本人学校の先生にお話をうかがいました。
インタビューした学校と先生のご紹介
インタビューした学校
台湾台北市
台北日本人学校
- 児童数:約750名(小学部・中学部合計)
- 教育目標:自ら考える力と思いやりの心を育み、心身ともにたくましい児童生徒を育成する
- 取材日:2025年3月26日
※日本人学校とは、在外教育施設の中で、文部科学大臣から国内の小学校、中学校、若しくは高等学校と同等の教育課程を有する旨の認定を受けており、原則的に国内の学習指導要領に基づいて教科書も国内で使用されているものを用いる学校のこと
台北日本人学校(学校ホームページより)
お話をうかがった先生
台北日本人学校 メディアセンター主任 田中淳也先生
田中淳也先生(学校提供)
在外教育施設ならではの課題と、その解消のための取り組み
日本語の本へのアクセスが難しい中、学校図書館が果たす読書支援の役割
―まずは、台北日本人学校で学ぶ子どもたちの現状について教えてください。
台北日本人学校は、日本と比較的近い台湾に位置しています。台湾の公共図書館や書店でも日本語の本を手に入れることはできますが、日本と比べると日本語の本に触れる機会が圧倒的に少ないという現状があります。その中で、日本語の本を子どもたちに届けて読書活動を支援する場として、学校図書館はとても重要な役割を担っていると思います。
―台北日本人学校様の図書館について教えてください。
台北日本人学校の図書館(学校ホームページより)
台北日本人学校の校舎は、2022年3月「つながる学校」をコンセプトに完成しました。その学びの拠点として本校の学校図書館(メディアセンター)は、校舎の教室棟の中央に位置しています。子どもたちが立ち寄りやすい立地と、カフェのような開放的な雰囲気が特長です。
約29,000冊の蔵書がありますが、先述の状況も考えると読書活動支援の役割としては足りていないと感じる部分もあります。
さらにコロナ禍を経て、図書館の役割はもう一度問われたと感じています。台湾では世界的な流行から1~2年遅れて新型コロナが流行しました。コロナ禍の日本で、子どもたちの学びや読書が手に入りにくい状況も見ていたので、「これは事前に準備しておかないと大変だ」と感じていました。そこで、学校に来られなくても読書を続けられる電子書籍のサービスを探し始めましたが、様々な事情から、海外に日本の電子書籍を提供しているサービスというのはなかなか無いことを知りました。クラウド経由だからどこにいても何でも使えるというわけではないということを痛感しながら探している中で、「MottoSokka!(もっとそっか!)」に出会いました。
「MottoSokka!」導入までの道のり
―田中先生が数年をかけて「MottoSokka!」(「Yomokka!」と「Sagasokka!」)の導入を進めてくださったのですよね。
まずは2021年に読み放題型電子図書館「Yomokka!(よもっか!)」を試行導入しました。私としてはぜひ正式に導入したかったのですが、学校全体に浸透させることが難しく、正式導入は見送りとなりました。
その後、「MottoSokka!」から提供されているもう一つのサービスである、オンライン事典サービス「Sagasokka!(さがそっか!)」のことを知りました。学校として探究活動に力を入れたいと考えていたこともあり、一部の学年で「Sagasokka!」を正式に導入することができました。
サポートページで公開されている活用促進コンテンツを用いて活用を進められたこと、「MottoSokka!」が第20回「日本e-Learning大賞」で賞を受賞した(※)こと、「Yomokka!」の掲載冊数も試行導入したときに比べて大幅に増えていることなどが後押しとなり、2024年5月からついに「Yomokka!」も正式導入となりました。
(2025年4月時点での「Yomokka!」の掲載書誌数は約4600冊)
※第20回「日本e-Learning大賞」にて「総務大臣賞」「日本電子出版協会会長賞」を同時受賞
台北日本人学校の読書活動と「Yomokka!」について
自分の興味関心に合わせた読書活動に「Yomokka!」を活用
―台北日本人学校様で実施されている読書活動について、教えてください。
全学年で8:00〜8:15をTJSタイム(Taipei Japanese Schoolの頭文字より)と設定し、読書活動を基本に行っています。また、小学1~4年生で週1時間図書の時間を設けており、読書や調べ学習に取り組んでいます。
―子どもたちにとって「Yomokka!」はどのような存在ですか。
本が好きな子にとっては本当に嬉しいサービスです。
そして本が苦手な子にとっては、色々な本の中から自分で選べるということが救いになっていると思います。この本と決められてしまうとなかなか辛いのですが、写真だけ眺めるのが好きな子もいますし、活字を自分のペースで読みたい子もいて、それぞれにあった読書活動ができるというのがとても良い点だと思います。
クラス全員で同時に同じ本を読みたい授業でも「Yomokka!」が活躍
―休み時間などの自主的な読書活動以外に、授業でも「Yomokka!」を活用いただいているとお聞きしました。
授業での活用については、サポートページ(※)に「すぐに使えるワークシート」や「授業で役立つ書誌リスト」が公開されているので、それを活用して、私から先生方に「こんなことできますよ、今こんな活動やっていますよ。」とお伝えしています。興味を持って使ってみた先生からは好評です。
※サポートページは、先生向けの活用アイデアなどをまとめたページです。
その中で、研究授業で「Yomokka!」を使った事例を紹介させてください。
小学5年生の国語科の単元「やなせたかし―アンパンマンの勇気」(光村図書5年)で「伝記を読んでポップをつくろう ~生き方について考える~」という研究授業を行いました。
やなせたかしさんの伝記を読んだ後、「Yomokka!」を活用し、『10分で読める伝記5年生』(Gakken)をクラス全員で読みました。そして、本書に掲載されている12名の中から、教員が児童にとってなじみが薄いと予想した6名を選出しました。児童は、その6名の中から興味を持った人を紹介するPOPを書き、偉人の生き方を学びました。伝記の本だけでなくPOPの作り方についても、「Yomokka!」に掲載されている『全国学校図書館POPコンテスト公式本 気持ちが伝わるPOPを作ろう』(ポプラ社)をみんなで読んで参考にしました。
この授業を担当された先生は、2024年度に来られた先生で、初めは「Yomokka!」の活用にあまり積極的ではなかったのですが、研究授業を通して、むしろ「Yomokka!」推進派になってくれました。
児童が作成したPOP(学校提供)
先生にも「Yomokka!」で読書をしてもらうことが、子どもたちの興味を広げるきっかけに
―田中先生の働きかけで他の先生方にもサービスの良さが広がっているのが嬉しいです。
せっかくなので先生たちにも「Yomokka!」で本を読んでみてほしいと思い、11月の読書週間のときには、先生たちとのコラボ企画も実施しました。「Yomokka!」と紙の本のどちらか、または両方から、子どもたちにおすすめしたい本を推薦コメントと共に挙げてもらったところ、全教員のうち半分以上が「Yomokka!」に掲載されている本を紹介してくれました。それらの本は、「Yomokka!読んでみました」と題して、子どもたちに紹介しました。
先生がすすめると子どもたちの興味も広がり、例えば歴史の本を紹介した先生のクラスでは歴史好きが増えて、保護者からも喜びの声がありました。先生がおすすめした本を読んだ後は、その本と同じシリーズのまた別の本も読んでみるなど、きっかけさえあれば子どもたち自身でどんどん読書活動を深めていけるのが良かったです。
先生がおすすめした本(学校提供)
台北日本人学校の探究学習と「Sagasokka!」について
活用促進コンテンツを使って、調べ学習・探究学習の楽しさが伝わる授業に
―では、続いて「Sagasokka!」の活用についても教えてください。
「Sagasokka!」も「Yomokka!」と同様、サポートページからダウンロードした「スターターキット」や「自主学習ネタ帳」を活用しました。
図書の授業(小学1~4年生)では、「Sagasokka!」で調べて答えを探せるクイズ形式のワークシートや、「Sagasokka!」で調べると楽しいアイデアを集めたワークシートを使って、「Sagasokka!」キャンペーンを実施しました。全問正解した子には賞状とプレゼントを用意したところ、授業時間だけではなく休み時間も使って取り組んでくれる子が多く、3~4年生では7割ほどの子が全問やり切ってくれました。
(2022年度に「Sagasokka!スターターキット」を活用して田中先生が実施された授業の紹介はこちら)
小学1・2年生では、自分でどんどんワークシートに取り組むというのは難しいので、みんなで遊びの延長のような感覚で「Sagasokka!」の使い方を学んでいきました。「未完成ぬりえ」のワークシート(※)を使い、「Sagasokka!」で見られる図解資料を参考に、未完成になっている絵を完成させました。
(2022年度に「未完成ぬりえ」を活用して田中先生が実施された授業の紹介はこちら)
低学年の場合、国語科よりも生活科の授業で「Sagasokka!」を使うことが多かったです。
※「未完成ぬりえ」は「Sagasokka!」の活用にもご利用いただける「総合百科事典ポプラディア」の活用素材です。Webサイト「Hello!ポプラディア」のこちらのページから、無料でダウンロードしていただくことができます。
「いろいろなどんぐり」(「Sagasokka!」より)
小学5年生以上は図書の授業がないので、探究学習でメディアセンターに来たときに「総合百科事典ポプラディア」と「Sagasokka!」を使ってみせることで、活用の裾野を広げるように努めました。例えば、中学校社会科で「武家社会」などの言葉の定義を調べる課題に取り組んでいた子には、「Sagasokka!」を教えたらとても喜ばれました。
「MottoSokka!」に対する先生方や保護者の反応
授業準備の負担の軽減や、授業進行のスムーズさが先生たちの助けに
―他の先生方は「MottoSokka!」のどこに価値を感じてくださっていますか。
「MottoSokka!」の画面を直接スクリーンに投影できるので、本や資料の共有が容易になりました。また、同じ本をクラス全員で読むときも「Yomokka!」のリンクを先生から送信するだけで良いので、授業準備も楽になりました。
本校の場合、毎年約10人の先生が異動で入れ替わります。新しく赴任した1年目の先生でも授業で「MottoSokka!」を活用できるよう、単元と合わせて使える活用方法をパッケージ化しておくことが大切だと思っています。
デジタルサービスならではの読書体験を評価する保護者の声も
―保護者の方からは、何か反応はありましたか。
「Yomokka!」で感想やランキングを投稿できる機能を普段から使って自分の意見を共有することに慣れているので、その他のホームページ、例えばキミノベル(ポプラ社)のホームページの掲示板などでも臆さずに発信ができるようになっているという声がありました。読書をする機能だけでなく、そこに付随する機能からも子どもたちは多くのことを学んでくれているんだなと感じました。
また、読むのが苦手な子にとっては「Yomokka!」の音声読み上げ機能(※)が有用だという声も聞きました。
※音声読み上げ機能は、一部の書誌(リフロー型)のみ対応
最後に:海外で学ぶ日本の子どもたちに、いつでもどこでも本が読めるという安心を
これまでにお話しした通り、在外教育施設に通う子どもたちは、日本語の本にふれる機会が少ないという現状があります。また、自分自身や兄弟姉妹の受験のために日本に一時帰国したり、保護者の方のお仕事の関係で転校したりするという児童・生徒もとても多いです(台北日本人学校では1年の間に転出・転入する児童・生徒が200人ほど)。
その中で、タブレットを開けば「MottoSokka!」がある、いつでもどこでも同じ本を読めるという状況を作ってあげられれば、子どもたちは継続して読書を行うことができ、子どもたちの安心感にもつながるのではないかと思います。今後は、「MottoSokka!」を導入している在外教育施設とより良い活用を目指して連携し、海外で学ぶ子どもたちの学びを支えていければと思います。
ポプラ社では、好奇心から始まる自発的な学びの循環をこどもたちに届けるための<本と学びのプラットフォーム>「MottoSokka!(もっとそっか!)」を通じて、こどものための読み放題型電子図書館「Yomokka!(よもっか!)」と、「総合百科事典ポプラディア」発オンライン事典サービス「Sagasokka!(さがそっか!)」の2つのサービスを提供しています。こどもの学びを豊かにする教育ICTサービスの導入をご検討の皆様におすすめです。
「Yomokka!」を利用している在外教育施設に通う児童・生徒は、2024年度に4,000人を突破しました。詳しくは下記の記事をご覧ください。
●読み放題型電子図書館「Yomokka!(よもっか!)」の海外の日本人学校(在外教育施設)での利用者数が4,000人を突破!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000960.000031579.html