探究学習とは?効果的に実施するためのポイントや調べ学習との違いについても解説
探究学習近年、教育現場で重視されている学びの一つが「探究学習」です。
答えのない時代(VUCA)において、社会を生き抜くために必要な「生きる力」を身につけるために、児童生徒が自ら課題を見つけ出し、周りと協働しながら自分なりの答えを探していくという探究学習の重要性が増しています。
「探究学習」と「調べ学習」には共通する点も多いものの、明確に異なるところもあります。この記事では、探究学習と調べ学習の違いや探究学習に取り組むためのプロセス、実施のポイントなどを解説します。
探究学習と調べ学習の違い
探究学習と調べ学習では、学習目的や学びのあり方などに違いがあります。それぞれの違いについて紹介します。
学習目的
調べ学習ではすでに答えのある課題やテーマを設定し、書籍やインターネットを使って答えを見つけていくことが学びの目的となります。
一方、探究学習とは、学習プロセス(習得→活用→探究)の中における三段階目の過程です。調べること自体が学習の目的ではなく、調べることはあくまで学習の入り口部分であり、得られた知識や情報に対してさらに深い考察を行っていくのが探究学習の主な目的となります。
児童生徒が自ら課題やプロセスを設定し、主体的・協働的に学んでいくのが特徴です。答えにたどり着くための方法に正解はなく、そもそも用意された答えがありません。各教科で得た知識・体験を教科横断的に関連付け、実社会・実生活において活用できるような「課題解決のプロセス」を身につけることが重要です。
協働的な学び
調べ学習・探究学習では、「他者と協働する」ことが重視されています。児童生徒どうしで協働するのはもちろんのこと、地域の人との交流など、学校外とも協働しながら学習を進めていくことが、重要なポイントになると考えられています。
さらに探究学習では、設定した課題に対して、「なぜその答えにたどり着いたのか」を自らの言葉で発表し、周囲からのフィードバックを受けて新たな課題を設定するまでが学習の基本的な流れです。
探究学習が求められる理由
探究学習に取り組むにあたっては、探究学習が重視されている理由を理解することが大切です。文部科学省が公表している学習指導要領の資料を基に解説します。
「生きる力」を育むため
「今、求められる力を高める 総合的な学習の時間の展開(小学校編)」によれば、予測困難な社会変化に対応し、人生の創り手となる力を身につけるためには「生きる力」を育むことが重要だとされています。この「生きる力」は、全く新しい力ということではなく、長年学校教育でその育成を目指してきたものです。「生きる力」をより具体化し、整理したものが「資質・能力の三つの柱」です。
資質・能力の三つの柱
- 実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
- 未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力」など
- 学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性」など
探究学習は上記の2番目に掲げられている「思考力、判断力、表現力」を身につけるためのプロセスだといえるでしょう。そのため、前提として日々の教科の学習を通した知識や技能の習得が大切である点も押さえておく必要があります。
探究学習の4つのプロセス
探究学習には、大きく4つのプロセスがあります。文部科学省が令和3年3月に公表している「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」の資料を基に、小学校における探究学習の具体的なプロセスを紹介します。
1.課題の設定
- 人、社会、自然に直接かかわる体験活動を重視すること
- 児童の発達や興味・関心を適切に把握すること
- これまでの児童の考えとの「ずれ」や「隔たり」、理想と現実の対比などを大切にすること
- 各教科等で身に付けた知識・技能を積極的に活用すること
出典:文部科学省「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」
探究学習においては、児童生徒自らが真剣に取り組みたいと思う課題を設定することが大切です。そのために、様々な体験活動などを通じて、学習対象と接する機会を提供することで、児童生徒の興味の発芽を促すことが重要です。児童生徒の発達段階に応じて、課題の発見につながる工夫を行ってみましょう。
2.情報の収集
- 体験を通した感覚的な情報の収集を大切にすること
- 課題解決のために目的をもって情報収集を行うこと
- その後の探究活動を深めるために、収集した情報を適切な方法で蓄積すること
- より多くの情報、より確かな情報の収集を行うために、各教科で身に付けた知識、技能を発揮すること
出典:文部科学省「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」
課題を設定した後は、観察・実験・見学・調査・探索・追体験などを通じて、児童生徒は課題解決に結びつく情報収集を行います。学習活動によって、数値化・言語化できる情報や、感覚的な情報など、得られる情報に違いがあることを意識してもらえるように働きかけてみましょう。
3.整理・分析
- どのような情報が、どの程度収集されているかを把握すること
- どのような方法で情報の整理・分析を行うのかを決定すること
- 整理・分析する活動として、「比較して考える」「分類して考える」「序列化して考える」「関連付けして考える」などの思考との関係を意識すること
- 国語科や社会科、算数科、家庭科などの教科等での学習との関連を図り、教科等と総合的な学習の時間が互いに支え合うように配慮すること
出典:文部科学省「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」
様々な方法で得られた個別の情報は、整理したり分析したりすることで、次の段階である思考する活動の材料になります。
4.まとめ・表現
- 情報を再構成し、自分自身の考えや新たな課題を自覚すること
- 相手意識や目的意識を明確にすること
- 伝えるための具体的な方法を身に付け、内容を明らかにすること
- 各教科等で身に付けた表現方法を積極的に活用すること
出典:文部科学省「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」
情報の整理と分析の結果、最後は自分の考察や、実践的な課題解決方法などを含めてまとめ、他者に伝えられるように資料などを作成します。児童生徒がすでに持っていた知識や経験と、学習活動によって得られた情報を結びつけることで、自らの考えとして発表します。資料作成にあたっては、算数科で学習したグラフを用いて情報を可視化するなど、各教科等での学習との関連を図ることも重要です。
上記の4つのプロセスを経ることで、自らの考えや課題が新たに更新され、探究学習がより踏み込んだものになっていくでしょう。最後に取り組みを振り返り、自己評価や児童生徒どうしで相互評価を行うことで、次の課題の設定につながっていきます。
ICTを活用して探究学習・調べ学習を効果的に実施するためのポイント
GIGAスクール構想により教育現場でのICT環境が整ってきていることをふまえ、ここでは、ICTを活用して探究学習・調べ学習を効果的に実施するためのポイントを解説します。
学びの過程を重視する
主体的で対話的な深い学び(アクティブ・ラーニング)では、「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」も重要な点だと考えられています。文部科学省の「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」の資料においては、次のような点が重要な学習ポイントとして挙げられています。
- 見通しをもって、粘り強く取り組む力が身に付く授業に
- 自分の学びを振り返り、次の学びや生活に生かす力を育む授業に
- 周りの人たちと共に考え、学び、新しい発見や豊かな発想が生まれる授業に
- 一つ一つの知識がつながり、「わかった!」「おもしろい!」と思える授業に
出典:文部科学省「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」
探究学習や調べ学習では、同じ課題であっても多様な捉え方をすることで、「これまで気付かなかったことに気付く」「考えもしなかったことにまで考えが深まる」といった効果が期待できます。また、ICTをうまく活用すれば、学習を進めるうえで前提となる知識の習得や情報収集、整理・分析や発表などの様々な部分で、学びをより深めることができるでしょう。
確かな情報源から情報収集をする
児童生徒の発達段階によっては、情報の真偽を判断するのが難しいことがあります。そのため、いきなり検索エンジンを使って情報を収集しようとするのではなく、まずは事典や辞典などでものごとの定義を調べたり、書籍や新聞などの信頼できる情報源で知識を得たりすることが必要です。ICTの活用という観点では、オンライン事典・オンライン辞典サービスや電子書籍、新聞のデジタル版なども選択肢として挙げられます。これらの確かな情報源を適切に選択しながら、情報収集を行っていきましょう。
また、児童生徒が主体的に学習に取り組めるように促しつつも、必要に応じて教員がサポートしていく体制を整えることも欠かせません。児童生徒の発達段階に応じたアドバイスをして、探究学習をうまく進められるようにサポートしていくことが重要です。
児童生徒が興味・関心を抱ける課題を設定する
前述の通り、探究学習においては、児童生徒が課題やテーマを自由に決めるものとされていますが、初めのうちはどのように課題を設定すれば良いか分からず、戸惑ってしまうケースもあります。そのため、児童生徒にとって身近な話題をいくつか取り上げ、探究学習や調べ学習の入り口にアプローチしていくことも大切です。
学習対象への興味・関心を抱くきっかけとして、ICTの活用は有効な方法でもあるでしょう。一人1台の端末を使って、自分の興味関心に沿って学習対象について調べたり、関連する記事を読んだりすることで、児童生徒一人ひとりが興味を持って取り組める課題を見つけることができます。
対話や協働的な学びが生まれやすい環境を整える
探究学習では、児童生徒同士の対話や他者との協働的な学びが重要なカギとなります。グループディスカッションやインタビュー調査など、周囲と積極的にかかわっていける機会を増やしていくことが大切です。
また、児童生徒が発表を行う際はフィードバックに関するルールを設けるなどして、伸び伸びと学べる環境を整えてみましょう。
ICTを活用すれば、資料の共同編集やフィードバックなどを即時性をもって行いやすくなり、さらに学習効果を高められるといえます。
まとめ:児童生徒が主体的・協働的に学べる環境を整えよう
学習指導要領においては、「主体的・対話的で深い学び」が重視されており、従来実施されてきた調べ学習に加え、さらに発展的な学びである探究学習も学校教育に取り入れられています。児童生徒が自ら課題を設定し、探究していく楽しさを知ることで、「生きる力」を育む教育につなげていけるでしょう。
ポプラ社では、探究学習を通じてこどもたちが主体的に学ぶ力を育むために、全国の小・中学校向けのオンライン事典サービス「Sagasokka!(さがそっか!)」を提供しています。事典編集部が手がけた確かな情報を授業で活用しやすい形でそろえており、クラス全員で学び合えるツールとして活用できます。
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